創業初期からあなたの味方になってくれる専門家=士業の方。特定領域についてはその道のプロにお任せした方がいいので心強い存在ではありますが、いったいどこまでお任せすべきか、また費用など検討がつかないこともあるかもしれません。それらをご紹介した前編に続き、今回は「委託の範囲について」考えます。ぜひ判断材料にしていただければと思います。
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どこまで委託することが適切か
正直、どこまでこれらプロフェッショナルの方にお願いするか/自分(達)でやるかということに正解はありません。私はCFOとして幾つかのスタートアップに関わっていたので、こういったコーポレート部門が管掌ではありましたが、会社の方針や資金力によって任せる業務は異なっていました。しかしながらこれは専門家にお願いした方が明らかに効率的、もしくは間違いがないといった業務がありますので、予算が許す限り任せられた方がいいと思います。
【税理士】
日々の経理業務については、自分で対応するか、経理をやってくれる人を採用することでもしばらくは問題ありませんが、決算月の税務申告業務は専門家の力を借りた方がベターと考えます。税務申告に誤りがあってはならないというのはもちろん、創業初期のスタートアップは免税事業者になれたり、従業員が増えてきた際に税務控除が行えたりと、税務的に優遇されることがよくあります。これらメリットを最大限享受するために、税理士の意見を聞いた方がよいでしょう。
【弁護士】
契約書のレビューなどは、毎回行うことに越したことはありませんが、一度内容を確認してもらった雛形を使うようにするなどすれば、法務リスクは低減させることができるでしょう。そのため資金に余裕がなければ顧問弁護士は必須ではないかもしれません。ただ、法的な解決が必要なトラブルというのは突然襲ってくるものです。いつでも相談できる、信頼できる弁護士を見つけて、困ったときにすぐ声がけできるようにはしておいた方がいいと思います。
【社労士(社会保険労務士)】
従業員を雇用することでの助成金については種類も多く、資金的な助けとなりえます。そのため積極的に申請することをおすすめします。こういった助成金には要項があるため、一読いただいた上で、自分が動くことで費用対効果が見合わないと判断したらすぐに依頼をしていいかと思います。申請には煩雑な作業が非常に多いです。また創業初期の問題ではないですが、上場を視野に入れた場合には、従業員への未払残業代や労働争議の可能性について非常に厳しく見られることになります。社労士に相談をしながら進めることが無難と思われます。
どこまでお願いするかということに正解はない。
大事なのは専門家がやっていることを知り、自分がやることと比べて
リスクを認識すること
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【司法書士】
私が個人的におすすめしたいのは、司法書士に登記関連の手続きを依頼することです。“登記をする”ということだけで考えると、意外と自分でも簡単にできてしまい、登録免許税だけ支払いをすればいいと考えると思います。ですが登記は、法定上必要なステップを経たのち、最後に行うプロセスを指すので、そもそも法定上必要なステップをしっかり踏むことに注意が必要です。
以前私が体験したことですが、会社法上適切な順序を踏んで株主総会を行い、議事録を作成し、登記を行いました。その際の書類に不備があることを見落としていました。1年ほど経って、株主と経営者の意見が対立したことがあり、この書類の不備を指摘され、そのため一連の流れは全て無効であると主張されました。法的な要件を満たしていたので、結果としては問題にはなりませんでしたが……。
このように、法的なプロセスに少しでも穴があると、後から蒸し返して追求されるケースがあります。完全に対抗要件を満たせるよう、司法書士とプロセスを進めることをおすすめする理由です。
【行政書士】
許認可が必要な業種であれば、要項を読み込みながら申請手続きを行うことは非常に煩雑で大変です。行政書士は同様のケースを多く経験しており、また制度変更があった場合のアップデートにも精通していますので、依頼した方が間違いないと思います。許認可が必要なビジネスは、それがないと進められないということもあり、最短で取得できるよう進めた方がよいと思います。
番外編:専門家が利用を要請するツール
専門家の方々が、経理システムや労務管理システムを「できればこれを使ってください」といって要請されるケースがよくあります。ですが、正直古いツールが多く、最新システムと互換性が低いため利便性が高いとはいえないものが多いように感じます。その代わりに顧問料が安くなる、または人的関係として協力してあげた方がいいという場合を除き、別のSaaS(Software as a Service)システムを使う方が安くて便利であることが多いことは、事実として頭に入れておいてください。
このように、専門家にどこまでお願いするかということについては、その専門家がどういうことを行っているのかを正確に理解し、自分が行うこととのリスクを見比べて判断すべきです。専門家に丸投げして「全て任せているから大丈夫」というのは、問題が起こらないということでは大丈夫かもしれませんが、創業初期にしては必要以上のことを依頼しており、無駄な費用が発生していることもあります。
「創業初期だから」「中小企業だから」大目にみてくれるだろうといって、税務的・法務的に不備がある状態を放置したり適当にしたりすることがあってはなりません。法令遵守の考え方をしっかり持って、求められていることはしっかり行うことを前提に、どこまで専門家に頼るのかを判断してください。
重ねて申し上げますが、どこまでやるかという正解はありません。起業家として事業の拡大に時間を最大限使えることが目指す部分であり、失敗した場合には取り返しがつかないことも多々ある専門領域なので、しっかりと報酬をお支払いして安心を買うことが重要です。
2回にわたりご紹介したことは、スタートアップ企業のTIPSをお伝えする要素が少ないかもしれません。ですが、経営に密接に関係して切り離せないことも事実。丸投げして不要な部分に過剰にコストをかける場面も散見されるため、1トピックスとしてお伝えいたしました。次回は最終話「起業家のメンタルヘルス」について考えます。
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