今回は経営理念についての話です。私の実体験や経験からの話になります。会社によって経営理念がしっかりある会社、ない会社、一応あるけどぼやっとしている会社など様々で、あってもなくても業績が良い悪いには影響がないかもしれません。私も学生の頃、経営理念のあるなしで業績にどのような影響があるかを研究した論文を探しましたが(筆者は経営学専攻)、結論に至ることはできませんでした。

「経営理念」は日本独自の概念

経営理念という言葉の定義
そもそも”経営理念”とはどのような意味でしょうか。私が調べた限りでは、経営理念に該当する言葉は、英語はもちろん外国の言葉にはなく、日本独自の概念であるようです。欧米などではMission/Visionが多く用いられていますね。日本で経営理念といっても、会社のあるべき姿であったり、こういうことをしますという宣言だったり、行動規範であったり会社によって様々です。恐らく正解はないと言っていいと思います。
例えばトヨタのグローバルビジョンは「笑顔のために。期待を超えて。」というものに、長く説明文が付加されている形。また働きがいのある会社1位常連のGoogleでは「1クリックで世界の情報へアクセス可能にする」です。トヨタはこれだけだと何をやっている会社かはわからない一方で、Googleは明らかにITカンパニーだとわかります。昨今はキャッチーさを意識しているのか、シンプルなメッセージがトレンドのように感じますが、長く文章で語る会社もあり、三者三様ですね。
スタートアップ企業にとっての経営理念
スタートアップ企業にとって、こういった伝わりにくいメッセージを作って発信することに意味があるのでしょうか。一見すぐには必要のないことのようにも思えます。しかしながら私が経験したなかで、とあるスタートアップ企業が経営理念をしっかり作り込むことによって明確なメリットを感じることができた実例がありましたので、当時の検討のプロセスとともにそれを紹介したいと思います。そのスタートアップ企業は現在は東証1部に上場しています!
その会社でも経営理念という言葉について突き詰めて考えましたが、概念を定義するのが難しく、理念を用いるのは諦めました。その代わりにVisionとMissionの意味を明確にしました。Visionは語源からして目に見えるものであるため「どういう姿になりたいか」を語り、その上でMissionは「そのために何をすべきか」という内容にしています。さらにValueという言葉を下層に置いて、Missionを達成するために大事にする概念をいくつか明文化しています。例えば、Visionは「持続可能な社会を目指す」だとして(壮大ですね!)、Missionは「エンターテイメントが継続的に生み出されるエコシステムを作る」のような形です。持続可能な社会=目に見える姿であり、エコシステムを作る=そのための行動という形になっていますね。その上でValueは、「新しいものを大切にする」「他者をリスペクトする」など、Missionを達成する上で必要だろうなと思われる価値観をいくつか特定していました。
この構成が私がこれまで経験した中では一番論理的に構造化されており、スッと浸透した記憶があります。このようにVision/Missionを明確にすることで得られるメリットはなんでしょうか。以下に紹介していきます。
経営理念を明確にする過程は、まだ自分自身でも気づいていない根元にある欲求と向き合うこと

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経営理念の3つのメリット
経営理念を明確にする過程において、あなたがなぜこの事業を立ち上げたのかを明確にすることは、ともするとまだ自分自身でも気づいていない根元にある欲求と向き合うことです。なぜ起業をしたのか?という自分自身との対話を言語化する行為とも言えます。
経営理念を明確にすることの第一のメリットとしては、あなたの行動に正当性が得られるという点です。あなたが今やろうとしていることは、あなたが望む未来を実現する第一歩である、未来に繋がっていると思うと自信になり、背中を押してくれるはずです。起業したての頃は何でもやらねばならず、忙殺されます。そんな中でも、将来に繋がっていると思えるだけで、力が湧いてくるものです。あなたが考えに考えて、根源的な意義を見つけ出したのなら尚更です。
第二に、一つ目と裏返しではありますが、自分がやるべきではないことの選択ができます。起業したての時は何でもやりたくなるもの。何かをやっていないと不安にすらなってしまいます。そういったときにやるべきではないことの判断基準を持っておくことに意味があります。
これら2つのメリットに関連して、「7つの習慣」という本で古くから言われている一節を紹介します。やるべきことを「重要度」と「緊急度」で見たときに、重要かつ緊急なことは誰もが最優先で取り組むだろうと思います。では、
①“重要であるが緊急ではないこと”
②“重要ではないが緊急であること”
あなたはどちらを次に優先するでしょうか?この本では、①の重要であるが緊急でないことを優先した方がいいと言っています。緊急というだけで錯覚しますが、結局は重要でないことなので、やらなかったとしてもいずれ不要になることがあるでしょう。それよりも自分にとって大事なことだけをやっていこうという考え方です。経営理念を明確にしておくことで、こういった重要なことの判断基準になります。

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経営理念を明確にすることのメリット第三は、採用の基準となるという点です。スタートアップ企業はカルチャーに合う人を採用することが肝要です。カルチャーに合わない人を採用するほど、マネジメントの難易度が上がるからです。スタートアップ初期では、組織づくりに時間をかけるよりも、事業を拡大させることや、事業の芽の仮説検証に時間を使いたいですよね。仲間を見つけるとき重要な考え方は別コラムで書きますが、カルチャーを理解して同じ方向性を向いてくれる人は、あなたにとって非常に大きな心の支えになるでしょう。
私が経営者として関わった、経営理念に向き合うこの会社は、常に“重要なこと”に集中してきたと言えます。上記で挙げたようなメリットを享受し、結果として、事業の成長も早まったと思います。経営理念という名の自分の本質と向き合うこと。その行為こそ、重要かつ緊急でないことかもしれませんね。
次回は、上記でも少し触れましたが、起業家がよく後悔するであろう「スタートアップ初期の仲間集め」について書きたいと思います。
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