グローバル女性のTips!

Vol4. 英国デザインコンサル 森田亜紀子さん (前編)

英国のデザイン界で20年以上活躍する亜紀子さん

在英歴35年。大阪生まれ。中学生の時に父親の駐在により渡英し永住。ロンドンのミドルセックス大学ビジュアルコミュニケーション学部を卒業。大学では多様なモノの捉え方コンセプトメイキングなどを学ぶ。卒業後はロンドンの広告代理店、パッケージデザイン会社などを経て、現在フリーランスのクリエイティブ・コンサルタントとして活躍中。

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イギリスのデザイン会社と日本のクライアントの橋渡し

亜紀子さんの仕事は、ロンドンのデザイン会社に発注された日本企業からのデザイン案件に関し、2国の企業間で意思疎通がスムーズに計られるよう橋渡しをし、クライアントの望むパッケージデザインを作り上げるというもの。

「橋渡しというのは2国間の文化的背景、デザインへの考え方、物事の捉え方、言葉の持つニュアンスの違いなどを理解した上で、クライアントの意図を分析。イギリスのスタッフが間違いなく理解できるように伝えた上でアートディレクションすることです」(亜紀子さん)

グラフィックデザイナーとしての知識、経験に加えて、日英両国の常識や文化の違いに精通している必要があり、英国に長く住んでいればよいということではない。

例えば、同じ単語でも日本人が思い浮かべるものと、イギリス人が思い浮かべるそれは同じとは限らない。それを理解しているかが肝。

「例えば、日本人が思い浮かべるリンゴは、赤くて蜜が入っているのに対し、イギリス人にとってのリンゴはフレッシュなグリーンで蜜は入っていません。

また、「ビール」といえば、日本人はキンキンに冷えた泡とビールの比率が2:8を理想とするものを思い浮かべるのに対し、イギリスのビールは、ほとんど泡がないんです。」

日本からの要望をそのままイギリス側に伝えてしまうと全く予想もしていなかったデザインが出来上がってしまうことも。


「イギリスらしいもの」ってどんなもの?

日本のクライアントからのリクエストで、亜紀子さんが一番センシティブになるのが、

・イギリスらしい
・オーセンティック
・洗練された感じ

なのだそう。

「日本から『イギリスらしい』というフレーズがくると私は頭を抱えます()。『イギリスらしい』イメージというのは、伝統的なものなのか、今のトレンドを指すのか、どの地域、どの階級層を指すのかなど。具体的に確認していかないと、思いもよらないデザインがあがってきます。

イギリス人が思う『イギリスらしさ』ではなく、日本人が「イギリスらしい」と思うものを作るのが仕事です。」

さらに、「『洗練された感じ』も依頼書の中でよく使われる言葉ですが、『洗練』といっても、伝統的・現代的、高級・ベーシック、など、多様な表現がありえます。価格の安い商品が、英国の老舗ブランドが用いる『洗練さ』を真似しても、商品マッチングは成立しません。

また、フォントひとつ取っても、日本とイギリスでは嗜好が異なるので、微妙なニュアンスを見極めないといけません。日本人が選ぶ欧文フォントは、イギリス人にとっては古臭いチョイスと感じることが多いんですよ。」

2国の文化的ギャップを埋めるコミュニケーション力

「私の役割は、日本のクライアントの担当者から細やかに丁寧に根気よく話をうかがい、本当の意図を汲み取ってイギリス側に伝えること」とおっしゃる亜紀子さん。

そんな立場にある亜紀子さんが、お仕事上心がけていることはどんなことでしょう。「日本のクライアントの要望はこうだからと押し通そうとするのではなく、イギリス人スタッフのプライドを損ねないようデザイナーからの提案内容をいったんは受け取ります。(もちろん、はっきり伝えないといけないときは伝えますが)。ただし、そのまま日本のクライアントに伝えられませんので、少しトーンダウンさせる必要があります。双方に気持ちよく仕事をしていただくために、この工程には非常に気を使います」

提案するときのコツは?

「提案書の内容を『絶対に大丈夫』『ちょっと冒険』『予想外」とわけるんです。一番保守的なものを1ページ目に見せます。ページをめくると段々チャレンジングなものに。「予想外」の提案から『それは面白い!』と、他の案件に繋がったり、1年寝かせてから採用されたこともありました」

日英デザイナーの違いは?

日本とイギリスのデザイナーに感じる違いについてうかがったところ、
「イギリスでは、ラフなものでもいいからオリジナルのアイデアをいかに数多く豊富に出せるかが評価されます。私自身、あるデザイン会社の採用面接に1つの課題に対して、20くらいのアイデアを出したこともありました。こちらでは、こんなこともできる、あんなこともできるというアウトプットの多面性が評価されるんです」

対して、日本のデザイナーと話をしていて残念に思うことは、

「『今、これが流行っているから』とか『他社がやっているから』という話が出てくること。そういうときはいつも『大切なのは、企業のブランドアイデンティティを念頭に、デザイン(表現方法)が違うものをいくつも出すことなのに』と思います」

日本企業が流行や他社を気にしすぎ、表現方法の多様性を追求しない理由は「企業内のインハウスデザイナーが多いからでは」とのこと。

「ずっと同じ会社にいるとその会社のカラーにとらわれ、見方が狭くなりがちかもしれませんね。制作プロセスの中で、デザインはほとんど変わらないのに色違いのバリエーションで議論する時間が長いがします。また、食品パッケージに関しては、売りたい一心でどんどんセールス文句がてんこ盛りになり客観視できていないなと感じることが多いです。」

その違いはどこから?

「もしかしたら、日英の教育の違いもあるかもしれません。イギリスの美大では、自分が興味を持つモノや思想を自由な形で表現する力を育む期間があります。ネタがないと何も創れませんから、私は身の回りのものすべてに目を光らせていました。

美術館に行けば、館内の電気のスイッチまでスケッチブックに書き留めていました。でも、それがなぜ面白いのかということを、そう思っていない人に分からせるにはどうすればいいのか、と考えなければならない」

とにかくバリエーションに富んだアイデアをたくさん出すことが求められる世界で、若いときから鍛えられているイギリスのデザイナーたちは、おのずと発想力豊かなクリエイターとして育っていくのだとか。

「創造力を豊かにする」ために「リサーチ」が大切

「美術館、博物館、絵画、写真、書籍、映画なんでもいいから、興味の有無にかかわらず貪欲に触れることです。ただ観るだけではなくて、これはこうしたらどうだろうという意識をいつも持ちながら訓練する感じで」

「私が今、読んでいるのは古典文学。スタインベック、ヘミングウェイ、ディケンズなども読めば読むほど理解力が上がります。ビジュアルの世界ではありますが、デザインを言葉でどのように伝えるかも大切な仕事なので、語彙や表現力の豊富さもとても大切な要素なんです。」

流行が起こりやすい日本・起こりにくい英国

日英の違いは、「人種の多様性の違い」にもあると指摘します。

「価値観が近い人たちの集まりということもあり、流行が起きやすいと言われる日本に対して、イギリスは、多文化・多人種なのでみんなの主義が全然違う。好みが全然違うから流行が起きにくいんです。ターゲットを絞るといっても、多種多様な商品・サービスが溢れるイギリスでは、「誰に」向けたものにするのかということが非常に難しいんです。」


後編
では
、イギリスでのコミュニケーションの取り方、また仕事上でのTIPSをうかがっています。

<後編>を読む

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