20代で米国に本部を置く国際金融機関で活躍
大学卒業後、政府系金融機関に就職。5年間コーポレートファイナンスや広報の実務にあたった後、2016年に米国に本部を置く国際金融機関に出向。日本政府の立場から同機関の意思決定に従事してきた。2019年に帰国。現在は、新興国の発電所融資案件を担当
出発点は「人の役に立ちたい」という思い
「生まれた時代や場所によって、頑張っても幸せになれない人たちがいる」。
大学生の頃、当時まだ発展途上であったマレーシアにある孤児院に2ヶ月滞在。「努力した人が輝けるような社会にしたい」という思いを強くし、自分の中のミッションとして掲げた千尋さん。
念願叶いアメリカの国際金融機関で働くことに!
大志を抱いて入った政府系金融機関では、入社1年目でも民間企業のカウンターパートは、キャリア10年選手ばかり。
「入社早々から、経験豊富な方々と関わらせていただいたことは、視座を高める上でも貴重な経験となりました」といいます。
3年ほど経った頃、学生時代から温めていた「国際金融機関で仕事がしたい」という思いを人事希望書の備考欄に長い作文を書いてアピール。その熱意が認められ、ワシントンにある当該機関への出向が決定されました。
小さい頃からの夢、「努力した人が活躍できる世の中に」という思いの入り口に立った千尋さんは、日本の理事室で理事補として勤務。この機関では、組織戦略から個別融資案件に関することまで、多くの意思決定を必要とされますが、それに対する日本のスタンスを固めるための情報収集や交渉、作案など多岐にわたる業務を担当しました。
世界中からエリートが集まる機関において、周囲を見回しても20代の職員は自分以外にはいなかったという状況。英語力についても中高で学んだことをベースに自分で学習を続けてきたといいます。
理事に代わってメインテーブルから日本のスタンスを表明することもあり、千尋さんが考えた素案が日本政府の方針として採用されたことも、一度や二度ではなかったそう。「年齢ではなく、実力がものを言う世界で仕事ができたことは、いい経験になった」と当時を振り返ります。
国際機関勤務の3年後「物事を的確に分析し、国際機関の立場、利害をしっかりと踏まえ、同時に日本の利害をきちんと反映した意見を言える人」と評価されるにいたった千尋さんのTIPSをご紹介しましょう
【「有能さ」をアピールし、「信頼」を得続けるためのTIPS】
TIPS1)謙虚さは不要。自信をもって意見を伝える
「伝えること」「発言すること」するという意味で、現地でよく使われていたのが「デリバリー」という言葉。
「いくら良い意見を持っていてもそれを伝えなければ何もしていないのと同じ。
自分たちが目指すことを実行可能にするためには多くの人からの賛同が必要です。つまり多数派を形成するために、何をどのようにデリバーするのかが非常に重要になってくるのです」
また、「『伝える』ということにおいて、日本人ならではの謙虚さは一切不要。誰も自信のない人の意見なんて聞きたくありませんから、デリバーするときは、自分の意見はあたかも世界一かのように自信を持って、堂々と話すことがポイントです。私は無駄に堂々と振舞っていましたよ(笑)」
TIPS2)誰よりも先にまず発言!
「私は出席した会議では、議長から出席者に向けて『発言したい人はいますか』と言われたら、すかさず手を挙げて、誰よりも先に発言するようにしていました。
質問がある際も、同様に一番乗りで手を挙げます。質問があるということは、そのアジェンダについて『よく考えている』という印象を与えることができるんです。
最初に話すことで存在感を示せるのと、発言を誰かに取られることもないので、必ずやっていました」
また、「何かを打診したり、誰かに意見を求めたりするときは、『アメリカとイギリスは、概ね私の案に乗ってくれています』というように、少しでも賛同が得やすくなるようなテクニックを使っていました」
TIPS3)「意見を聞かせて」と個別に頼る
また、「伝える」だけではなく、「いろんな人にどんどん話を聞いてこい」と上司から言われていた千尋さんが実行していたのが「突撃」
例えば関係スタッフの元に行き、「次回の会議で話すこの件は、とても大事な話だから、事前に説明が聞きたい」とか、「あなたのやっている仕事に、とても興味があるから色々教えて欲しい」など積極的に人の話を聞くために「突撃」していたのだそう。
「もちろん、情報を得るために相手の元に行くのですが、相手も『教えて欲しい』など頼られて悪い気はしませんし、あえて『懐に入る』ことで良い関係が築けます。親しくなることで、その後調整が必要になっても、スムーズにことが運ぶことを感じていました」
TIPS4)毎回、期待値以上の「付加価値」を乗せる
「求められた問い、課題に対する回答や意見が本当にそれで十分なのかよく吟味する。できれば『何か付加価値をつけることが大切』」という千尋さん。
例えば、機関の方から提出された戦略について、日本としての意見を求められた場合、日本の立場を述べるだけで十分な場合でも、「もっと広く大きな視野で考えた意見をプラスした」そう。
TIPS5)「自分だけにある価値」を見極め、その「ブランド」になる
また千尋さんが周囲から高い評価を得た理由の1つに、「日本で民間融資の仕事をしていた経験・知見を活かせた」ということがあります。
というのも自国を含め他国のスタッフは省庁出身の方が多く、民間企業の事情に通じている方が少なかったため、コンセプトは良いけれど実行計画に落とし込めないような意見を主張するケースがほとんど。
それに対し、日本では民間企業向け支援プロジェクトに対してそのプランがどれだけ現実的なのかという視点で意見を出すようにしていたところ、「チヒロの意見は適切だ。我々の組織のこと考えた上で意見を述べてくれている」と信頼してくれる人が次第に増えていったのだそう。
国際機関のスタッフも千尋さんを頼りにしてくることがあったとか。
「例えば日本に対して提案がある場合、日本の理事に話を持っていく前に、私に『どう思う?』って聞いてくるんです(笑)。そんなときは、『こういう点を加えたらうちの理事にも賛成だと後押しできるし、プロジェクトもやりやすくなるんじゃないかな!』とアドバイスしていました」
さらに
「『チヒロは政府のハイレベルな視点とプロジェクトの現場感覚の両方をバランスよく持っている』というブランディングをしていったのです。ブランディングは、他者との『違い』を認識し、他者へ広めていくこと。これが国際的な機関でも日本企業でも組織で働く以上、とても大事なことだと思います」
他者に言われて気づく「自分の価値」もある
一方で、「民間企業の視点」以上に価値を出せる自分の得意分野はどこにあるのかということを考え続けていたとも。
あるとき、50代の女性ベテラン職員から言われたことにハッとしたそう。
「あなたの分析力は素晴らしい。過去の議論にも遡って、ぶれないロジカルなアイデアをいつも言ってくれて、我々も非常に助けられている」と。
「確かに1つ1つの分野に深く向き合う姿勢を保ち続け、過去の事例についてもリサーチするなどし、多角的な視点を持つようにもしてきていた」という千尋さん。シニア職員の指摘によって、そのことが他者への付加価値となっていると気づけた瞬間だったそう。
後編では、多忙な毎日の中で心がけていたこと、そしてkay meについてお話いただいています。
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