「kay me」の10周年を記念して実現した、ファウンダー・毛見と一般社団法人日本女性起業家支援協会代表理事 兼 日本ママ起業家大学学長・近藤洋子氏の特別対談の模様を、前後編2回でお届けしています。
前編では、毛見が起業を志すきっかけとなった原点や危機に直面した際のマインド、そして経営者として感じる醍醐味を中心にお伝えしました。
後編の今回は、海外出店や起業当初の出来事を振り返り、女性起業家などが直面する悩みやその乗り越え方などをお伝えします。
海外出店の経験を”糧”にする
近藤 私が運営しているママ起業大学では比較的規模が小さい起業が多いのですが、ゼロイチ立ち上げる大変さを感じています。kay meは今、何店舗立ち上げているんですか?
毛見 全国で11店舗です。グローバルへは現在オンラインのみで、以前はロンドンに店舗がありました。
近藤 海外に店舗があったんですね。ちなみに、海外に出店するのは国内に出店するのと勝手が違いますよね?
毛見 そうですね。1ヶ月半、ロンドンで店舗を構えて、色々なことがありました。特に、私をはじめ経営メンバーがロンドンにいたので、時差の関係で日本にいるメンバーへのマネジメントが難しかったです。
あと、店舗を出す際に日本なら当たり前にあるサービスがロンドンにはなくて…。例えば、店舗に置く家具とかも自分で組み立てなければならなかったり。経験してみないとわからないことばかりでした。
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近藤 なるほど…。
毛見 でも大変なことだけでなく、楽しいこともありました。あとマーケティングの観点からも、多くの収穫がありました。
例えば、洋服のサイズ。ロンドンで働くビジネスパーソンは、すでに用意しているサイズを着られるのですが、観光で訪れているアフリカ系の方などは、骨格が違って身体の幅も大きかったりするので、15号とかでも対応できません。現在のkay meのラインナップを考える上で、とても参考になりました。
あと「Made in Japan」のブランド力やデザインが通用すると確信が持てたのも大きかったです。Kay meは「花鳥風月」や「波」をモチーフにした和柄のワンピースなどがありますが、これは日本だけでなく海外でも受け入れられました。
ちなみに、細かい点ですが、海外で販売する商品のタグは日本語のままにした方がいいんです。
近藤 えっ、そうなんですか?
毛見 はい。日本語表記にして、日本ブランドであることを認知してもらうのも重要なんです。実際、海外展開に成功しているアパレルブランドも、タグを日本語表記のままにして販売しているケースがほとんどです。

初出店を「銀座」にこだわった理由
近藤 洋服を作ったことがない女性が、ゼロからアパレルブランドを立ち上げて11店舗構えるというプロセスも気になりますが、最初のお店がどうだったのか気になります。
毛見 コンサルティングファームを辞めた後、マーケティングコンサルティングの会社を立ち上げました。その会社と並行して、さらに kay meを立ち上げて別の場所に店舗を構えます。
なので、当初は2つの拠点を往復して対応していました。予約が入ると4畳半のkay meのオフィスに移動して、そこで接客していました。
近藤 ちなみに場所は?
毛見 銀座7丁目です。
近藤 なぜ銀座に出店したのですか?
毛見 やはり”買い物”という行動を考えた時、あらゆるものが凝縮している立地と kay meのターゲット層の属性を踏まえて、銀座がベストだと判断しました。世界のブランドが日本国内で最も集まっていますし、忙しい方なら丸の内や虎ノ門からも近いので、利便性も良い。そこは、新宿や表参道とは違ったメリットを感じました。

またいわゆるオフィス街から離れているので、買い物モードになっていただきやすい。丸の内や新宿だと、どうしても職場の同僚がいないかとか気になりますからね。
近藤 しかし、銀座だと物件の確保など大変そうです。しかも場所が7丁目だと集客にも苦労するのでは?
毛見 確かに、いわゆる銀座の一等地ではありません。
しかし、集客は当時オンラインで完結していました。なので、必ずしも一等地の路面店に出店する必要はありません。
銀座だと、ビル1階で路面に面した物件は競争率も高いですし、坪単価も非常に高額です。しかしビル7階とかになると、坪単価も圧倒的に安く、競争率も高くない。なので、テナントの確保はそこまで苦労はしませんでした。
集客も、私と同じように多忙で洋服選びに時間をかけられない方が周りにたくさんいました。まずは、彼女たちに声をかけて、オンラインで商品を見てもらい、お店に足を運んでもらいました。
近藤 なるほど。顧客の目線に立って、より良いユーザー体験を提供するのがいかに重要かがわかります。
毛見 はい。あと、これは感覚的な部分ですが、銀座という場所の「気の良さ」もポイントです。なかなかロジカルに説明できるものではありませんが、これも重要視しています。
銀座の店舗も起業してから3回移転しています。特に現在のテナントは、想定した家賃よりはるかに高かったです。しかし駅からのアクセスと、何より気が良かった。こういうのは巡り合わせですし、予算はひとまず度外視して入居することに決めました。
実際、現在の銀座のテナントには満足しています。10年経営して感じるのは、論理だけでなく、感覚的な能力も重要だということですね。
他者評価とのギャップをどう乗り越えるか
近藤 話題は変わりますが、先日毛見さん含め女性4人でご飯を食べた時に「誰が一番隙があるか?」という話しで盛り上がりましたよね。
毛見 私が一番、隙があると思っていたら…。
近藤 実は一番隙がない。ダントツでしたね(笑)。
毛見 びっくりしました。でも次点は接戦で近藤さんでしたよ(笑)。
kay meのお客さまにも「ポジションが上がると怖く見えるから、そうならないようにしたい」という方がいらっしゃいます。どんなシャープに厳しいことを言っても、洋服はふんわりとしてバランスを取りたい。「辛辛ミックス」より「甘辛ミックス」にしたいという声を聞きます。そう考えると皆さん、悩みが収斂されていますよね。
女性ってもともとフワフワしていますけど、ポジションが上がるとそうではいられない。そのジレンマを抱えている方が多いですね。
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近藤 私は生徒から実年齢より10歳以上も上に見られることがあります。
毛見 女性経営者の方とお話ししていると「こんな可愛らしく話す人はいないのに」と感じる一方で、社員はそう感じていないという声も聞きます。そう考えると、近藤さんがそう見られてしまうのもわかります。
近藤 毛見さんも、実際の姿と他人から見た姿にギャップがありそうですね。
毛見 そこはどうすればいいですかね?自己評価と他者評価が違いすぎるんです。
近藤 酔い潰れた飲み会参加者を、膝の上で優しく撫でている毛見さんが印象的です。まるで猫を撫でるように。そういう素のキャラクターを見ているので、他の方からの評価が意外に感じます。
毛見 少なくとも、私がひざまくらで寝ることはありません(笑)。
近藤 ちなみに、異性が食事を取って「あーん」ってスプーンを口元に持ってきたらどうしますか?
毛見 「ありがとう」と言って、自分でスプーンを取って食べます(笑)。
近藤 それは恥ずかしいから?
毛見 いえ、自分のことは自分でコントロールしたいからです。
もうここまで来ると、自分の性格がガラッと変わることもないと思うんです。そうしたら、個性のままに清く正しく生きるのがいいのかなと。100本の花があったら、そこには異なる100通りの花があるわけですからね。
近藤 瀬戸内寂聴さんみたいに達観していますね(笑)。
毛見 kay meもバリエーション豊富に洋服を取り揃えているので、着てくださる方の個性を表現できたらいいなと切に思います。現代は、どれだけ個性を際立たせられるかが重要ですから。
近藤 その通りです。改めまして、本日はありがとうございました。次の10年の発展も楽しみにしています。
*全2話終了
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